背景
八代海ではシャットネラ(Chattonella spp.)による赤潮が頻発し、これまで甚大な漁業被害が報告されています。現場では餌止め、生簀避難などの事前策を講じていますが、事前策を効果的に実施するために赤潮発生予察技術の開発が望まれています。赤潮発生予察には、今後赤潮が発生するか否かを示す赤潮発生予察と、発生した赤潮が今後拡大(または終息)していくかを示す赤潮拡大予察があります。ここでは、数か月先に赤潮が発生するか否かを示す中長期予察について紹介します。
予察手法の解説
これまでの研究から、八代海におけるシャットネラ赤潮の発生には、冬から春の気温と梅雨入り時期が関係していることが明らかとなっています。そのため、これら2変量を用いた判別分析によるシャットネラ赤潮の中長期予察技術を開発してきました。具体的には、「八代における2月から4月の平均気温」と「5月16日からその年の九州南部の梅雨入り日までの経過日数」との関係から、赤潮発生・非発生に対する判別分析モデルを作成し、赤潮発生・非発生を予察するものです。加えて判別得点により、赤潮発生日を予測します。
判別分析モデル(図1)から、2月から4月の平均気温が高く、梅雨入り時期が遅いほどシャットネラ赤潮が発生しやすいことが示されます。また、プロットされた点と判別直線までの距離を判別得点とし、この判別得点とシャットネラ赤潮発生日(6月30日からの経過日数)の回帰式を使うことにより、赤潮発生日を推測できます。
今年度の見込み
2024年は、2月から4月の八代(気象庁観測地点)における平均気温が13.58℃、
九州南部の梅雨入りが6月8日頃(気象庁発表)であることから、
高確率でシャットネラ赤潮が発生することが推測されます(図1内の赤丸)。
また、判別得点が3.75であったことから、
シャットネラ赤潮発生時期は6月30日から数えて5日前、
すなわち6月25日頃と予想されます(図2)。
注意点・課題点など
この中長期予察手法は、梅雨入りまでの環境から夏季に赤潮が発生する可能性の高低を示すものであり、実際の八代海夏季の環境(水温、塩分、栄養塩、競合種関係等)が
シャットネラの増殖に適していないと赤潮化しないことがあります。また近年は地球的な環境変化の影響もあり、現在使用している判別分析モデルが適用できなくなる可能性もあります。今後も引き続き現場データを集積し、本予察手法の精度検証および高度化を図っていきます。
参考文献
Onitsuka et al.(2015)Meteorological conditions preceding Chattonella bloom events in the Yatsushiro Sea, Japan, and possible links with the East Asian monsoon. Fisheries Science, 81: 123-130.
備考
これは、水産庁委託「漁場環境・生物多様性保全総合対策事業」、
「漁場環境改善推進事業」、
「豊かな漁場環境推進事業」により得られた知見に基づき、
水産研究・教育機構が作成しています。